2025/08/09 16:15

こんにちは。岡山の焙煎所、吉岡珈琲焙煎所です。

今日はブラジル産の珈琲について解説してみようと思います。


ブラジル珈琲の概要

ブラジルは世界最大のコーヒー生産国であり、その生産量は長年にわたり世界一の座を維持しています。国際コーヒー機関(ICO)の統計によると、世界のコーヒー供給量の約3分の1をブラジルが担っており、年間生産量は5,000万袋(1袋=60kg)を超える規模に達します。ブラジル珈琲は、安定した品質と豊富な供給量、そして多様な風味が魅力であり、ストレートコーヒーとしてだけでなく、世界中のブレンド用ベースとしても欠かせない存在です。

ブラジル珈琲は、国土の広さと多様な気候条件を背景に、多くの生産地域ごとに異なる風味を持っています。一般的に、ブラジル産コーヒーは酸味が控えめで、ナッツやチョコレートのような甘く香ばしい風味が特徴とされます。このため、エスプレッソのベースやブレンド用の土台として非常に重宝される一方、スペシャルティコーヒーとしても高い評価を受ける品種やロットも増えてきています。

生産の歴史

ブラジルでのコーヒー栽培は、18世紀初頭に始まりました。1727年、フランス領ギアナからもたらされたコーヒー苗木がパラー州に植えられたのが起源とされています。当初は国内消費が中心でしたが、19世紀に入ると輸出用作物として急速に拡大しました。特にサンパウロ州やミナスジェライス州などの南東部地域での栽培が盛んになり、コーヒーはブラジル経済の柱として発展しました。

19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ブラジルは世界のコーヒー市場をほぼ独占的に支配するほどのシェアを持つようになります。この時期、コーヒー輸出はブラジルのGDPの半分以上を占め、国内インフラの整備や港湾都市の発展にも大きく寄与しました。また、コーヒー栽培は多くの移民労働者を受け入れる契機にもなり、特にイタリアや日本からの移民が農園労働や小規模農家として活躍しました。現在でも、日系ブラジル人の中にはコーヒー生産に関わる人々が多く存在しています。



主な生産地域と特徴

ブラジルのコーヒー生産は、標高、土壌、気候の違いによって地域ごとに風味特性が異なります。主要な生産地を挙げると以下のようになります。

ミナスジェライス州
ブラジル最大の生産地で、特に南ミナスは高品質なアラビカ種の産地として有名。柔らかな酸味と甘いナッツ感、バランスの取れた風味が特徴。

モジアナ  
地区は豊かなボディと甘みを持つコーヒーで知られます。伝統的な農園が多く、安定した品質の豆を産出。

エスピリトサント州
主にロブスタ種(カネフォラ種)を生産する地域。アラビカも栽培されますが、ロブスタはエスプレッソブレンドやインスタントコーヒー用に多く用いられます。

バイーア州
近年急成長している生産地。灌漑設備を利用した近代的農法により、均一で高品質なアラビカ種を生産。

パラー州やロンドニア州
アマゾン地域での生産も少しずつ増加しており、特にロンドニア州はロブスタ種の新興地として注目されています。

品種と精製方法

ブラジルでは主にアラビカ種とカネフォラ種(ロブスタ)が栽培されていますが、その比率はアラビカが約70%、カネフォラが約30%です。代表的な品種としてはブルボン、ムンドノーボ、カトゥアイ(Catuai)などがあります。これらはブラジルの気候条件に適応しやすく、高収量かつ安定した品質を持つ品種です。

精製方法はナチュラル(乾式)とパルプドナチュラル(半乾式)が主流で、ウォッシュド(湿式)は少数派です。ナチュラルは果肉をつけたまま天日乾燥させる方法で、甘みとコクのある風味を生みます。パルプドナチュラルは果肉を除去してから乾燥させるため、よりクリーンで酸味が引き立つ仕上がりになります。

風味の特徴

ブラジル珈琲の代表的な味わいは以下の通りです。

・酸味が控えめでマイルド
・ナッツやアーモンド、ミルクチョコレートのような香ばしさ
・しっかりとしたボディ感
・後味に甘みやカラメル感

このようなバランスの取れた風味は、シングルオリジンとしても楽しめますが、特にブレンドのベースとして優れています。
酸味の強い中米産やアフリカ産の豆と組み合わせることで、風味の調和を作り出すことができます。


焙煎と抽出のポイント

ブラジル珈琲は酸味が穏やかなため、中深煎りから深煎りにしてもバランスを保ちやすい豆です。
中煎りではナッツ感と軽い甘みが引き立ち、深煎りではチョコレートやカラメルのようなコクが前面に出ます。

抽出方法としては、ペーパードリップやフレンチプレスはもちろん、エスプレッソにも適しています。
エスプレッソの場合、ブラジル豆をベースにすると苦味・甘み・ボディが安定し、クレマも厚く仕上がります。

文化的背景と社会的側面

ブラジルにおけるコーヒーは単なる農産物ではなく、国民的な飲み物であり、文化の一部です。日常的に「カフェジーニョ」と呼ばれる小さなカップの濃いコーヒーを提供し合う習慣があり、来客時や仕事の合間、友人同士の会話の場など、あらゆる場面でコーヒーが登場します。

また、コーヒー産業は多くの農家や労働者の生活を支えており、フェアトレードやサステナブル生産への取り組みも進んでいます。近年は気候変動の影響による生産量の変動や品質低下の懸念もあり、耐病性品種の開発やシェードツリー(木陰栽培)の導入など、持続可能な農業へのシフトが課題となっています。

まとめ

ブラジル珈琲は、その歴史、規模、多様性において他国を圧倒する存在です。世界最大の生産国としての役割はもちろん、ブレンドの土台としての信頼性、シングルオリジンとしての個性、そして文化的・社会的価値の高さも魅力です。酸味控えめで甘みとコクを兼ね備えた味わいは、多くのコーヒー愛好家にとって馴染み深く、今後も世界中で愛され続けることでしょう。